色味

白は、あらゆる光を反射するもっとも明るい色です。

そして神事を司る聖なる色とされています。

「古事記」や「日本書紀」には、神の化身として白狗(しろいぬ)、白鹿、白鳥などの白色の動物の姿であらわされています。

巫女が白装束をまとい、白粉を顔に塗るのも、神に仕える神聖さを象徴するためです。

白い着物、というと花嫁衣装の白無垢が代表的です。

花嫁の純真な気持ちの表れと説明されることが多いようですが、かつては人間に嫁ぐ前に神様に嫁ぐ、という儀式があり、婚礼は神事だったため神聖な白を用いたようです。

また、気高さ、清潔さを表す色でもあります。

青みを帯びた白磁、黄味のある乳白色など、微妙な色味を含む様々な白色があります。

白系の帯は様々な色の着物と合わせやすく、コーディネートの幅が広がります。

黒は平安時代において公家の装束の最高の色でした。その一方、闇や夜などを連想させるため、穢れや罪などのイメージがあり、不吉な色、ともされていました。

時代の転換期に流行る傾向があり、平安時代末期の源氏の鎧や、桃山時代末期から江戸時代にかけては黒地の小袖、そして江戸時代末期にブームとなった黒繻子の帯や掛衿などがあります。

現代では、男性の黒紋付羽織袴、既婚女性の黒留袖、喪服など、第一礼装に用いられてます。

高級感、品格、重厚さ、落ち着き、などを感じさせる色です。

また、引き締め効果のある色でもあります。

赤は、その鮮やかさから、色の中で最も目立つ色です。

火や太陽など、人が生きるために必要なものと多く結びついており刺激的です。また、魔除けの意味も持ちます。

純情、可憐を表す色でもあるので、未婚女性の正装である振袖や、子供の着物に使われることが多い色です。その反面、強さ、激しさ、若さ、勇気を象徴する色でもあるので、時の権力者にも好まれました。武具や鎧などに緋色が多用されています。

赤は「効かせ色」としての効果が高く、帯締めや八掛などに用いると着こなしのポイントになります。

また、江戸時代では長襦袢や裾除けはほとんどが緋色で、歩く時に着物の裾からちらりとのぞくことを意識してのおしゃれでした。

多くの青色は「藍(あい)」を染料として染められています。この藍の濃淡によって、様々な種類の青を表現しています。

藍は正絹だけでなく、木綿や麻などの植物繊維にもよく染まり、堅牢で色褪せにくく虫除けにもなることから、身分の高い人から庶民まで幅広く用いられました。江戸時代農民や町民は、ほとんど藍木綿を着ていたと言っても過言ではない、と言われています。この藍の色は明治時代に来日した英国人科学者アトキンソンにより「ジャパン・ブルー」と賞賛されました。

現代でも、青は非常に好感度の高い色として企業のロゴマークなどに使われています。

青は、海や空、水、そしてみずみずしい樹木の青緑など、生命力をあらわす色であり、さわやか、澄んだ、涼しい、冷たい、といったイメージがあります。

また、知性や信頼、誠実、清潔、などを感じさせる色です。

黄色

黄色は、明るい、暖かい、快活、陽気といった印象を与える色です。

親しみやすさを感じるので、万人受けします。

太陽光線と結びつけられている色で、「黄金」にも通じ、国王・皇帝・神などの権威や壮麗さを象徴する色でもあります。日本では、黄櫨染(こうろぜん)や黄丹(おうに)が天皇、皇太子の色とされており、重要な儀式の際に身につけられています。

江戸時代に多様された鮮やかな「鬱金(うこん)」、明るい「卵色」などがあり、濃淡で印象がかわる色です。

幼さや、注意喚起といったイメージもあり、また、目立つ色なので、現代では幼児の衣服や持ち物などにも用いられています。

日本は自然に恵まれた国です。山を覆う森林や、また身近な庭の草花や公園の樹木など、緑はそれらの自然を象徴する色です。

若竹色、萌黄色、若菜色、など、植物をあてた色名が多くあり、藍と黄の染材の濃淡をかけあわせることで多様な緑をあらわしています。

黄みが強い緑から、青みの強い緑まで、色数が多いです。

みずみずしい、若さ、さわやか、安らぎや癒し、といったイメージがあります。

青と黄色の混色で作られる色なので、それら2つの色となじみます。

また、控えめな色なので、他の色ともバランスが取りやすいです。

紫は平安時代から近代にかけて女性の服色として好まれています。

特に、平安時代では高貴な色に位置づけられ、皇族やそれに続く身分の者しか身につけることができませんでした。当時に書かれた「源氏物語」は紫づくしと言ってもいいくらいで、源氏の最愛の女性は「紫の上」と呼ばれています。さらにもうひとり、思いを寄せる女性も「藤壺の宮」であり、藤はやはり紫の美しい花を咲かせます。衣装でも、桔梗の襲(かさね)、藤の襲、といった紫系のものがたくさん登場します。

赤と青という反対色を混ぜて作られるため、「高貴と下品」や「神秘と不安」といった二面性を持ちます。用いられる場面でその印象が変わる、不思議な色です。

その他、大人っぽい、優雅、粋、妖艶、神聖な、知的、といったイメージがあります。

桃色

柔らかい、優しい印象を持つ桃色は、女性的なイメージの強い色です。

青みがかった桃色から黄色みがかかった桃色まで幅広くあり、似合わないだろうと思っていてもあててみると意外と自分に合う色を見つけることができます。

また、女性を美しくする色とも言われており、身に着けたり、持ち物を桃色にすることで幸せな気分を作り出します。女性ホルモンの分泌を助け、美肌効果もあります。

桜や春を象徴する色でもあり、淡い桃色は上品で優雅、ショッキングピンクのような濃い桃色はパワフル、派手な印象になります。

贈り物のラッピングやリボンに使用されることが多いのは、桃色が感謝や愛情を伝える意味を持っているためです。

茶色

茶色は華やかさとは無縁の渋い色ですが、そのわずかな色調の変化で様々な色合いを表現することから、「通(つう)」や「粋(いき)」な色とされています。江戸っ子にも大変人気で、歌舞伎の人気役者や茶人の名などから名前をつけ、「四十八茶百鼠」もの微妙な色合いを楽しんでいました。

自然界では土の色に代表され、万物の根底にあり静かで不可欠な色です。

茶色のイメージは落ち着き、安定、安心、温もり、頼もしい、渋い、素朴、などがあります。

橙色

橙色はミカン科・橙の実の果皮の色で、赤みのかかった黄色です。現代ではオレンジ色、という色名のほうが定着しています。

暖色系の色は好みが分かれることが多いですが、橙色は万人受けする色合いです。喜びや幸福感、元気、明るいといった印象を受けるので、様々な場面で使用できます。

色の持つイメージは太陽、夕日、活力、元気、温もり、楽しい、社交的、親しみ、などです。

鼠色

現代では灰色、グレーという色名になじみがありますが、江戸時代は火事が多かったため、火を連想させる「灰」を嫌い、「鼠色」と呼んでいたそうです。

茶色と並び、「四十八茶百鼠」もの微妙な色合いがあります。

他の色とのなじみがよく、自己主張せず周囲の色を引き立てる調和の色です。

控えめな上品さがあります。

落ち着き、大人、上品、クール、エレガント、スタイリッシュ、地味、などのイメージがあります。